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あべ弘士『えほんねぶた』

 あべ弘士さんによる「絵本ねぶた」制作の様子を撮影した写真絵本。「絵本ねぶた」は、弘前市の金剛山最勝院というお寺で絵が描かれ、青森で組み立てられ、青森ねぶた祭の「市民ねぶた」の前ねぶたとして運行されたそうです。あべさんが作られたのは、一般に青森ねぶたとして知られる立体の組ねぶたではなく、弘前ねぷたと同じ平面の扇ねぶた。

 この絵本では、制作のプロセスが一つ一つ写真で紹介されているのですが、和紙や墨汁、絵の具、筆といった画材や「ねぶた絵」作りの技法、組み立て方などが詳しく説明されており、興味深いです。なかでもロウソクのロウを使って描くのが、おもしろい。明るく透明感が出るとともに、絵の輪郭として独特の効果があるんですね。

 和紙は横3.6メートル、縦2.4メートルの巨大なもの。表側の絵(鏡絵)と裏側の絵(見送り絵)の2枚で、たくさんの動物が描かれていきます。カラフルで楽しい雰囲気です。そして、中央に大きく描かれるのは、あべさんが絵を担当した絵本、『トラのナガシッポ』のトラと、ご存じ『わにのスワニー』のワニがモチーフ。

 和紙の上に直接ひざをついて絵筆で少しずつ彩色していくあべさんの姿からは、緊張感がありながらも楽しそうな現場の雰囲気が伝わってきます。とくに、お寺の本堂におかれた和紙に最初の筆を下ろした写真が、とても美しい。大きな真っ白い和紙が広げられ、その一部にたっぷりの墨でアザラシの輪郭を描くあべさん。これからワクワクするような楽しいことが始まる……そんな期待に満ちた画面です。

 もちろん、完成した「絵本ねぶた」がまちを練り歩く写真もあります。たくさんの写真がコラージュされているのですが、ねぶたそのものではなく、祭りに参加している人たち、「はねと」が中心。激しくはじける(?)あべさんも写っています。子どもたちの写真もいっぱい。威勢のいいお囃子やかけ声が聞こえてくるようで、祭りのエネルギーと活気に満ちています。

 もう一つ印象的なのは、冒頭と巻末の絵のページ。ここの4ページないし3ページのみ、あべさんが絵を描いており、真ん中すべてが写真なんですね。最初のページでは、あべさんのルーツと「ねぶた」との関わりが語られ、最後の3ページには祭りの終わりが描かれています。ゆく夏を惜しむような切なさのある絵、そして、めくったラストページは、もう秋。東北の激しく短い夏が去っていったことを実感できます。この絵本は、「ねぶた」とともにあった一夏のドキュメントなんですね。

 ところで、今回の「ねぶた」制作については、2004年6月9日付けの東奥日報に関連記事が載っています。Web東奥・ニュース20040609_13:あべ弘士さんが絵本ねぶた制作です。記事によると、あべさんは2年連続で「絵本ねぶた」を制作されたそうです。

▼あべ弘士『えほんねぶた』講談社、2005年、[ブックデザイン:沢田としき、撮影:恩田亮一・柏原力・編集部、印刷所:株式会社精興社、製本所:大村製本株式会社]