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いとうひろし『くものニイド』

 主人公は蜘蛛の「ニイド」。仲間から「くものすだいおう」と呼ばれるほどの巣作りの名人です。なにせ、小さな虫はもちろん、カブトムシだろうと、ジェット機だろうと、空飛ぶ円盤だろうと、捕まえてしまうのです。ところが、そんなニイドでも、唯一、捕まえられないものがあったという物語。

 その捕まえられないものを捕まえるという展開が、なかなか愉快で面白いのですが、一番、驚いたのが話のオチ。ううむ、これは、ある意味、スゴイかも。まさか、こんなオチを持ってくるとは……。うちの子どもも「えっ!」と唖然としていました。

 それはともかく、絵がけっこう特徴的かもしれません。鮮やかな空の青をバックに、カラフルな色合いで「ニイド」たち蜘蛛が描かれています。いとうさんの他の絵本と比べても、ヴィヴィッドな色彩です。

 あと、主人公「ニイド」の顔がけっこうワル。黒目(?)が小さくて、凶悪そうなんですね。へんに可愛くないのがよいです。

▼いとうひろし『くものニイド』ポプラ社、2006年、[編集:荻原由美、印刷・製本:凸版印刷株式会社]

いとう ひろし『レーザーこうせんじゅうビービー』

 うちの子どもに教えられたのですが、この絵本には少し不思議なところがあります。たとえば、おもちゃ屋さんには「レーザーこうせんじゅうビービー」といっしょにヘリコプターなどが飾ってあるのですが、それとまったく同じものがあとの画面で飛んでいたりします。また、バナナを「レーザーこうせんじゅうビービー」に見立てて「ようかい」(実はネコ)を退治する画面では、木に眼が付いていてじっと見ています。見立て遊びやごっこ遊びがはじまると、まわりの世界も変わってくる、そんな感じでしょうか。

▼いとう ひろし『レーザーこうせんじゅうビービー』童心社、1998年

いとう ひろし『レーザーこうせんじゅうビービー』

 レーザー光線銃ビービーをおもちゃ屋さんで見つけた「ぼく」。でもお母さんは買ってくれません。そこで、バナナを光線銃に見たてて遊びます。イヌやタバコのおじさんを退治(?)していく様子がおかしいです。最後は「おにいちゃん」との対決。兄弟遊びの描写は、いとうさんの他の絵本にもたしかあって、うちの子どもに教えてもらいました。さすが、よく覚えている(^^;)。

▼いとう ひろし『レーザーこうせんじゅうビービー』童心社、1998年

いとうひろしさん関連のウェブサイト

 先日紹介した『どろんこ どろちゃん』の作者、いとうひろしさん関連のウェブサイトです。

 まず、絵本の出版社、絵本館作家紹介

 絵本館で絵本を出されている作家さんが紹介されており、そのなかに、いとうさんご自身のエッセーが掲載されています。原っぱで手にしたバッタの足から絵本が語られていて、おもしろいです。

絵本も同じです。自分の心をひらくきっかけにすぎません。絵本にかいてあることなんてどうでもいいんです。その先が絵本の楽しみ、おもしろさだと思います。

 絵本をきっかけにして心が開かれる、これは子どもだけではなく大人にも当てはまるかもしれませんね。

 続いて、同じく絵本館が書店向けに不定期に発行している絵本館通信「絵本はごちそう」Vol.4(2000.秋号)のなかの「きいてきいてコラム●いとうひろし」。これは、毎回、絵本作家の方にいろいろ質問して答えていただくコーナーのようです。

 いとうさんには、好きな季節、子どものときに大好きだった遊び、好きな食べ物、好きな作家や画家など、10この質問が出されています。好きな絵本も挙げられているので、そのうち読んでみようかなと思いました。桜を背景にしたいとうさんの写真も付いていました。

 とくにおもしろかった回答を2つ引用します。

3.歳をとったら、どんなおじいさんになりたいですか?
 すっごくいじ悪でヘンクツで回りの大人からはきらわれるのに、一部の子どもには、妙に好かれる変なおじいさん。
6.最近、思わずふきだしてしまった出来事は?
  5歳の息子とおふろに入っていました。彼はせっけんのついたスポンジで体をあらっています。「もっとごしごしとおしりもちゃんと洗って」と私。すると彼。「あっ! おしりの穴にせっけんのあわが入っちゃった。でも、いいか。これで、うんちもきれいになるしね」

 この絵本館通信「絵本はごちそう」は、他にもおもしろい記事がいっぱいあって、おすすめです。

 最後に、三井グループの三井広報委員会が発行している『三井グラフ』Volume130 JANUARY-MARCH 2003。特集が「絵本の楽しみ」で、そのなかの記事「この絵本が好き! 絵本のプロが自分のために選んだ5冊」にいとうさんも寄稿されています。

 いとうさんが選んだ5冊は次のとおり。これらも、そのうち読んでみようかなと思いました。

  • 『きょうりゅうきょうりゅう』バイロン・バートン
  • 『ピッツァぼうや』ウィリアム・スタイグ
  • 『ベントリー・ビーバーのものがたり』マージョリー・W・シャーマット/リリアン・ホーバン
  • 『ゼラルダと人喰い鬼』トミー・ウンゲラー
  • 『アルド・わたしだけのひみつのともだち』ジョン・バーニンガム

 この『三井グラフ』Volume130 は、いとうさんの他に、内田麟太郎さん、西村繁男さん、長野ヒデ子さん、石津ちひろさんといった作家の方や、子どもの本専門店メルヘンハウスの三輪 哲さん、たんぽぽ館の小松崎辰子さんが、5冊の絵本を選んでエッセーを寄稿されています。他には、赤木かん子さんのエッセーとおすすめ絵本の紹介、読み聞かせについての記事もあり、なかなか充実しています。こちらもおすすめです。

いとうひろし『どろんこ どろちゃん』

 子どもは土いじりが好きですね。私の子どももそうで、砂場遊びとかけっこう好きです。でも、近くの公園(というほどのものでもないですが)の砂場は、カンとかビンとかプラスチックのかけらとか、いろいろゴミが捨てられていて、あまり安心して遊べません。幼稚園では存分に土いじりを楽しんでいるようですが。

 この絵本、そんな土いじり、どろんこ遊びの楽しさを描いています。といっても、登場人物(?)は子どもではなく、どろんこの「どろちゃん」、つまり、どろそのものです。頭も手足もあって、眼と鼻と口、それからボタン(?)のようなものも付いていますが、すべてがどろで出来ていて、全身どろ色です。

 まず、「どろちゃん」の作り方。

ぼくの つくりかたは かんたんだよ。
つちを コップに 5はい。
みずを コップに 2はい。
よく かきまぜて、
よく こねて。
はい、できあがり。

 この文章の付いている絵では、「どろちゃん」自身がどろの入った容器のなかに立って自分でかき混ぜています。よく考えてみると、なかなかシュールな絵柄です。

 どろんこ遊びでは、もちろん、土と水のバランスが大事。水が少なすぎても多すぎても、うまく「どろちゃん」はできません。そのあたりをこの絵本では、筆(?)のタッチの違いで印象的に表現しています。土が固すぎてぽろぽろの「どろちゃん」はザラザラしたタッチで描かれ、逆に水分が多すぎてべちゃべちゃの「どろちゃん」は水をたっぷり含ませてぺったりと描かれています。

 どろんこを落としたり投げたりしてドカーンと爆発する様子や、足でけってピュッピュッとどろはねする様子も、「どろちゃん」のアクションと筆使いで表されていて、これもおもしろい。

 そして、どろんこ遊びの一番の楽しみといえば、どろ団子。この絵本は、「どろちゃん」がころころ転がってどろ団子になり、それを子どもの手が上からつかもうとするところで終わります。このラストからは、「さあ、どろんこ遊びを楽しもう!」という誘いのメッセージがよく伝わってきます。

 あと、この絵本ですごいなと思ったのは、どうやら指を使って描かれているところです。全部かどうかはちょっと分かりませんが、画面のあちこちに作者のいとうさんの指紋が付いています。表紙・裏表紙の見返しは、いとうさんの指紋だらけ。絵の具(もしかして本物のどろだったりして?)を指に直接つけて、真っ白い画面に「どろちゃん」を描いていく、これ自体、一種のどろんこ遊びかなと思いました。まさにどろんこ遊びのように、楽しんでこの絵本は描かれたのかもしれませんね。

 カバーにはいとうさんからのメッセージがありました。引用します。

どろんこ あそびは
たのしいね
ぎゅっと にぎれば
ゆびの あいだを
どろんこが どろどろ
きみも どろんこあそびを
やってみよう
きっと どろちゃんと
ともだちに なれるよ

▼いとうひろし『どろんこ どろちゃん』ポプラ社、2003年

いとうひろし『ルラルさんのにわ』

 いとうひろしさんのルラルさんシリーズの一作目。ルラルさんシリーズは、うちの子どももとても好きです。

 主人公のルラルさんは、芝生の庭をとても大切にしていて、動物たちが入ろうとすると、パチンコで追い払ってしまいます。誰も庭に入れません。ところが、ある朝、ワニが庭に入り込みます。かみつかれると恐いので様子を見ていると、ワニいわく、

「なあ、おっちゃん。ここに ねそべってみなよ。
きもちいいぜ。しばふが おなかを ちくちくするのが
たまらないよ。」

 試しに寝そべってみると、その気持ちよさにうっとり。自分が大事にしていながら見失っていたものに気が付いたルラルさん、それからは動物たちを追い払ったりせず、みんなでいっしょに芝生に寝そべるようになります。

 このおおらかなストーリーに加えておもしろいと思ったのは色の使い方です。たぶん水彩と色鉛筆だと思うのですが、使われる色が限定されています。たとえば緑色でも、芝生の緑と木々の緑と山の緑がすべて同じ色になっており、動物たちについても、鳥も犬も猫もワニもオレンジと黄色で描かれています。しかも、基本的にベタで均質な色合いです。どのページにも同じ色が同じように現れ、その結果、全体を通じて紙面に安定感があり、と同時にページをめくるごとに色のリズムも生まれているように感じます。

 使用する色が限定される絵本というと、ディック・ブルーナさんのミッフィーシリーズが有名ですが、それほどではないにしても、この絵本もまた意図的に色を限っているのかなと思います。

 あと、主人公のルラルさんがユニーク。客観的にみると、丸底メガネ(ワニを丸太と間違えるほど目が悪い)にはげ頭でちょび髭、一人暮らしで中年のあやしい「おっちゃん」です。でも、とてもユーモラスで(たぶん)おしゃれなおじさんです。

 ワニとルラルさんが気持ちよさそうに芝生に寝そべっている様子、また、終わりのページでルラルさんとたくさんの動物たちが芝生にゆったりと寝そべっている様子をみていると、自分も芝生にごろんと横になりたいなあとついつい思ってしまいます。のーんびりした気持ちになれる絵本です。

▼いとうひろし『ルラルさんのにわ』ポプラ社、2001年