「絵本を知る」カテゴリーアーカイブ

再開

 直近の記事が2007年3月31日。すでに7年近くたってしまいましたが、ゆるゆると再開しようと思います。

 7年もたち、絵本との関わりも変わりました。子ども達はもうかなり大きくなり、自宅で絵本の読み聞かせをすることはなくなりました。日常的に絵本に接する機会は7年前と比べるとだいぶ減りました。

 その一方で、この間、小学校での読み聞かせボランティアに参加し、今年度で8年目です。月一回、小学生たちの前で絵本の読み聞かせをしています。ただ、こちらのボランティアも、やれたとしてあと2年。絵本との接点は細くなっています。

 このサイトも、7年の間に、バックグランドのシステムを変えたり、一時的に閉じたり、レンタルサーバをあちこち漂流したり、実は、いろいろやっていました。古い記事は、まだ表示がおかしく、そのうち少しずつ直せたらと思っていますが、いずれにせよ、このサイト自体どうするか、自分でも決めかねていたようなところがありました。

 しかしまあ、3年ちょっととはいえ、絵本に関心を持ってあれこれ感じたり考えたりした記録であり、このサイトを消してしまうのは、なんだかもったいないなという気持ちはありました。たいした内容ではないのですが、それでも……。また、やはり自分は絵本というものが好きだなという感覚もずっとありました。

 ここ半年くらい、あらためてこのサイトを続けていこうという気持ちがだんだん湧いてきて、よし!と、再開することにしました。おそらく以前とは、内容も形式もだいぶ変わると思いますが、絵本に関することをあれこれ勝手に書いていくのは変わらないでしょう。2014年新春、ちょうど切りも良いことですし(笑)、ここで仕切り直してやっていこうと思います。

 いやまあ、とはいえ、のんびり、ゆっくりです。たまーに更新できたらいいかな、という感じ。

 あと、通常のブログの記事とは別に、二つの新しいセクションをつくってみました。絵本・リンク集絵本・切り抜き集です。前者は、絵本に関係するいろいろなサイトのリンク集で、後者は、絵本に関係するウェブ上のニュースや記事などの切り抜き集です。どちらも、ブックマーク作成のためのシステムを組み込んでいます。これらも、そんなに頻繁に更新はできないかもしれず、のんびり、ゆっくり続けていこうと思っています。

 この間、ウェブの世界は、SNSが一般化し、だいぶ様変わりした印象もあります。自分も、去年、Twitterのアカウントをとってみました。絵本と…… (ehon_to)さんはTwitterを使っていますです。まだほとんど何もありませんし、何をどうするかも分かりませんが、何か使えるとよいかな。

 さて、そんなわけで、次の更新はいつになるか分かりませんが(一カ月、いや一年くらい先かも?)、あらためて絵本を読んで感じて考えていこうと思っています。

福音館子どもの本ブログがスタート

 少々、遅れた話題ですが、福音館書店のブログ、「福音館子どもの本ブログ」が3月2日から公開されています。福音館子どもの本ブログです。

 福音館書店のブログというと、「こどものとも」の全バックナンバーを1年間かけて紹介したこどものとも50周年記念ブログが知られています。そのなかの福音館書店から(第54回)、また「福音館子どもの本ブログ」についてに説明がありますが、今後は「福音館子どもの本ブログ」をメインにするようです。

「こどものとも50周年記念ブログ」のコンテンツもすべて、新しいブログに移転するとのこと。「50周年記念ブログ」のコンテンツは本当に貴重なものと思います。それが、場所は変わるものの、以前と変わらず誰でも閲覧できるのは、素晴らしいです。

 また、新ブログでは、「こどものとも傑作集」新規製版にちなみ、絵本の製版について精興社の技術担当の方の連載が掲載されています。こちらも非常に興味深い。これからも、ぜひ、絵本を支えている方々の記事を期待したいです。

 さらに、今後は「母の友」のブログもスタートとのこと。どんな内容になるのかな。こちらも期待大ですね。

 ところで、新ブログは、ニフティのココログ上で運営されています。「50周年記念ブログ」は福音館書店さんの自サイトで運営されていました。少々うがった見方かもしれませんが、これは、ブログ運営の負担を軽減するためかもしれません。

 「50周年記念ブログ」では、以前からスパム・トラックバックが集まっているようでした。このあたりにも、自サイトでの運営の難しさが表れている気がします。

 とはいえ、運営に難しさがあるからといって止めてしまうのではなく、よりよい環境でさらに充実した情報発信に取り組まれているのは、本当にすごいです。これは、福音館書店の担当の方の熱意の表れのように思いました。

小風さちさん、「わにわに」シリーズの誕生

 日本海新聞、2006年12月24日付けの記事、子どもら夢中で本選び 絵本ワールド開幕。「絵本ワールドinとっとり2006」が12月23日と24日の両日、鳥取県米子市で開催されたというニュースなのですが、そのなかで、小風さちさんの講演会が少しふれられています。

 非常に興味深かったのは、「わにわに」シリーズの誕生秘話について語られている部分。引用します。

リアルなワニのキャラクターで人気を集める小風氏の絵本『わにわに』シリーズが生まれたのは、東京都内の公園でワニの出没騒ぎがあったことがきっかけ。ワニを心待ちにしているうちに「ずる ずり ずる ずり」とワニが体を引きずる音が聞こえてきたといい、「お話が自ら生まれてこようとしていて、私が媒体となったうれしい瞬間だった」と話した。

 あの「わにわに」の背景にはこんなエピソードがあったんですね。なるほどなあ。たしかに、ワニが体を引きずる音は、「わにわに」シリーズのとても重要な要素と思います。声に出して読んでいると、あの擬態語がとても気持ちよいのです。力が入るというか、リズムが刻まれるというか、非常に体感的。その「ずる ずり ずる ずり」という音から、まさに「わにわにシリーズ」は生まれたわけで、たいへん興味深いです。

 少し検索してみたら、実際に講演会に出席された方のブログがありました。子育て支援ネット西部-すこもも – livedoor Blog(ブログ)の、絵本ワールド  小風さち さんです。すこももさんの記事でも、小風さんの講演の内容が少し触れられています。「赤ちゃんは言葉を食べてしまう、だからできるだけ良い言葉を食べさせたい」という小風さんの考えは、「わにわに」シリーズにも体現されているように思いました。

 あと、すこももさんの記事によると、小風さちさんは松居直さんの娘さんだそうです。ぜんぜん知りませんでした。いや、びっくりです。

 ちなみに、「絵本ワールド」は、子どもの読書推進会議が主催で2006年度は全国11会場で開催しているとのこと。絵本ワールドに紹介があります。また、絵本ワールド開催予定にはスケジュールと詳細が掲載されています。

竹内通雅さんの「私の生きる道程(みち)」

 BIGLOBEのサイト、BB-WAVEアサヒビールとの提携セクションの過去シリーズに、私の生きる道程(みち)というものがあります。「独自の生き方、夢を持った生き方、人とちょっと変わった生き方をしている人に、彼らの『人生』や『仕事』、『趣味』などについて語ってもらうコーナー」とのこと。このシリーズの第2回で竹内通雅さんが登場していることを偶然、知りました。たぶん3年くらい前のテキストと思います。

 アサヒビールが関係しているためか、お酒の話も出てきて、これはこれで面白かったのですが、絵本についていろいろ興味深い内容が記されています。

 まず、竹内さんが絵本作家としてデビューするに至るまでの経緯。まったく知らなかったのですが、竹内さんはもともと現代美術作家を志しておられ、その後、イラストレーターの仕事をされていたそうです。80年代、いわば売れっ子のイラストレーターとして活躍されたとのこと。バブルがはじけて仕事が激減し、そのあと、39歳のときにはじめての絵本を出版。思いもがけない経緯で絵本の世界に入られたことがうかがえます。

 また、絵本が作家と編集者との共同作業によって生まれることも示唆されていて、興味深い。たとえば『森のアパート』の一部には編集者のアイデアが生かされているそうです。少し引用します。

絵本って、企画から出版までに結構時間をかける。原案を持って行くと編集会議にかけられて、いろいろ直されたりして。直す個所によっては大元から考え直さなきゃという場合もあるしね。その絵本がストーリー性のあるものなのか、フラットな展開のものか、絵画集的なものなのかによっても作り方は違ってくるけど、緻密さがアナーキーの下に隠れているのが絵本なんだ。

 「緻密さがアナーキーの下に隠れている」というのは、なるほどなあと思いました。一見したところ思いのままに自由に描かれているように見えて、実は細部に至るまで考え抜かれた表現であること。そこには、作家のみならず、編集者のアイデアも反映されているし、おそらくは出版社のいろいろな意図も(よい意味でも悪い意味でも)入ってくると言えます。

 それから、絵本の可能性やこれからのことについて。面白いなと思ったのは「絵本の世界を紙の上から空間に広げる」という構想。竹内さんは変わらず現代美術への志向を持っておられ、絵本もまた「現代美術のフィルターを通して」作られているそうです。その延長線上で、「いままでやってきたことをみんな生かして自分のアート作品をつくりたい」とのこと。どんなものになるか、かなり興味をひかれます。もう一つ、竹内さん作曲の絵本のテーマソングも、ぜひ一度、聞いてみたいですね。

 あと、最後の一文が非常に印象的。子どもたちは小学生になると絵本よりテレビゲームの方が楽しくなってしまうことを指摘されたあとで、次のように語られています。

でも絵本の記憶って、頭のどこかに必ず刷り込まれてる。普段は忘れてても、大人になってからも何かのきっかけでふと思い出すことってあるよね。そういうのが絵本のいいとこだなあって思う。イラストは消費物だったけど絵本は作品。いまの自分自身は、なかなか気に入っているよ。

 おそらく、絵本もまた「消費物」であることは確かなのではないかと思います。売られて買われる「商品」であり、とりわけ財布を握る親にとってはそうでしょう。しかし、子どもにとっては、たぶん、ただの「消費物」で終わらないのではないか、「消費物」からはみ出す部分が相当にあるんじゃないかと思います。

 あるいは、子どもと一緒に絵本を読む大人にとっても、そういうところは多分にある気がします。子どもに何度も何度も読んでぼろぼろになった絵本は、もはや「消費物」ではありません。大切な宝物と言っていいと思います。それは、きわめて個人的な記憶と結びつき、他とは決して取り替えることのできない何かです。

 一人ひとりの記憶と分かちがたく結びつき、いわば人生に寄り添うところが、まさに絵本の「作品」性なのかもしれません。

『絵本作家の仕事・実情と問題点』はたこうしろうさんの投稿

 このサイトのおすすめブログの一つ、絵本作家の仕事・実情と問題点は、タイトルの通り絵本作家さんをとりまく状況について毎回いろいろ考えさせられる記事が掲載されています。11月30日付けの最新記事、絵本作家はたこうしろうさんの投稿、はたこうしろうといいますは、絵本に関心を持っている方には、ぜひ一読をおすすめします。絵本について、とても大事な論点が幾つも記されていると思います。

 とくに絵本業界の構造的な特徴とそれがもたらす問題の指摘は、非常に納得しました。もしかすると私も、はたさんが言われている「大人読者」の一人なのかもしれないと思いました。もちろん、うちのサイトは、ウェブの辺境の辺境にあって細々とやっているだけなのですが、しかし、絵本についてあれこれ勝手に書いていることの意味合いについて少し自覚させられた気がします。

 いや、自分でもまだよく理解できていませんね。またゆっくり考えてみたいと思います。

屋外での父親による絵本読みきかせ

 日本最南端の新聞社、【八重山毎日オンライン】 石垣島・竹富島・黒島・西表島・小浜島・波照間島・与那国島などのローカルニュース 、10月24日付けの記事、父親の読み聞かせ好評/屋外活動に子どもたち大喜び 【八重山毎日オンライン】

 石垣市立白保小学校で行われている父親による屋外での絵本読みきかせです。年2回実施され、10月20日には校内6カ所で父親が持参した絵本を読んだとのこと。写真も掲載されているのですが、とても気持ち良さそう。10月でも石垣島は夏ですね。木陰で夏服の子どもたちがお父さんを囲んでいます。うーん、素晴らしいです。

 面白いのは、子どもたちには事前に絵本名と場所だけが知らされ、誰が読むのかその場所に行くまで分からないこと。自分のお父さんとか、お気に入り(?)のお父さんではなく、絵本それ自体と読む場所それ自体を子どもたちは選ぶわけです。

 なんというか、スリリングな一期一会。

 同じ絵本でも、誰が読むかによって印象はかなり変わるでしょうし、また読み聞かせなら、誰が聞くかによって変わってくるでしょう。その「誰か」がそのときにならないと分からないわけです。

 加えて絵本を読む空間の唯一性。屋外ですから、風も光も土も空気も、その場かぎりです。もちろん、屋内で絵本を読むときも同じですが、屋外ではその唯一無二性を肌で実感できると言えます。子どもたちにとっても、お父さんたちにとっても、毎回、非常に新鮮なのではないかと思います。

 あるいはまた、自分のお父さんとは違うお父さんに出会う、自分の子どもとは違う子どもに出会う、しかも毎回変わっていく、このことの意義はいろんな点で大きいかもしれません。

 記事によると、白保小学校では、すでに10年ほど前から父母による読み聞かせをしているとのこと。屋外での読み聞かせも2002年からスタート。これは全国的に見ても、かなり早い取り組みなのではないかと思います。すごいですね。白保小学校の紹介ウェブページはしらほ小学校。PTA活動が活発との記述があります。

 屋外で子どもと一緒に絵本を読む……一度、やってみたいなあ。

講談社がコンビニで絵本を販売(その2)

 先日のエントリー、「講談社がコンビニで絵本を販売」でふれたコンビニでの絵本販売ですが、YOMIURI ONLINEの9月11日付けの記事、絵本はコンビニで : 出版トピック : 本よみうり堂 でも取り上げられています。

 記事によると、すでに2004年末に講談社はコンビニで絵本の販売を始めているそうです。写真も掲載されていますが、回転式の専用棚を用意しているとのこと。

 出版社側の事情としては、先のエントリーでも紹介したのと同じく、絵本販売の新規ルートの開拓ですね。今回の記事では、コンビニ側の事情として、昼間の売上増とイメージアップの2点が挙げられています。実際、幼稚園の近所や病院内のコンビニでは絵本がよく売れているとのこと。なるほどなーと納得です。

 また、記事では、これまで絵本販売の中核を担ってきた中小書店の減少により、ここ数年、絵本の売り上げが伸び悩んでいることが記されていました。

 思うのですが、中小書店が減少していった背景要因には、郊外型の大規模書店の進出やネット書店利用の拡大と並んで、コンビニの普及もあったように思います。つまり、通常の書籍については大規模書店やネット書店にお客を取られ、雑誌やマンガについてはコンビニにお客を取られるという構図です。

 そうしてみると、コンビニも一つの要因となって絵本の販売ルートが縮小していき、それに対応するために、コンビニで絵本を販売していくというわけで、なんだか皮肉な展開にも思えてきました。

 あと、今回の記事で注目されるのは、コンビニの販売時点情報管理システム(POS)で売れ筋を分析し、販売絵本を入れ替えていくという点。コンビニですから、絵本の販売実績もシビアに解析されていくわけですね。

 ある意味、当然の販売戦略と言えます。しかし、ちょっとどうかなーと感じるところもなきにしもあらず。

 通常の書店であれば、販売実績だけでなく、いわば絵本の「質」を重視して棚をつくることもあると思います。売れるかどうかはともかく、この絵本を読んでほしい・読ませたいという思いで絵本を置くこともあるでしょう。これに対し、コンビニの場合には、すべて「売れる」絵本でおおわれる傾向が強い気がします。もちろん、スペースが限られていることもあるでしょうが、しかし、POSで分析して売れる絵本だけで棚をつくるとなると、そこには絵本に対する「思い」が入り込む余地はあまりなくなるように感じます。

 まあ、考えすぎかもしれませんね。でも、せっかくだから、おまけ付き絵本だけじゃなく、もうちょっとスタンダードな絵本も置いてほしいところです。コンビニにとっても、そのほうがイメージアップになると思うのですが、どうでしょう。

父親の絵本読みきかせ

 JPIC 財団法人 出版文化産業振興財団が刊行している季刊誌、『この本読んで!』のサイト、えほん大好き(読みきかせ・絵本大好きな方々のコミュニティ)に興味深い記事が載っていました。特集 お父さんだって、読みきかせたい。です。

 『この本読んで!』の読者の夫、100人に対し、家事・育児へのかかわりや読みきかせについて実施したアンケートが掲載されています。もちろん、サンプルが100人ですから、平均的父親とは言いにくいですし、また『この本読んで!』を定期講読しているとなると、比較的絵本に親しんでいる家庭かもしれません。それでも、一般的な傾向は読み取れると思います。

 上記のウェブページの左側には、アンケートの単純集計がグラフで表されています。それを見ると、まず意外だったのは、父親がかかわっている家事・育児の第3位に読みきかせが挙がっていること。複数回答で、全体の42%です。けっこう読みきかせをされているお父さんが多いと言えます。

 その一方で、読みきかせが好きだと答えた父親は28%、読みきかせが得意と答えた父親は21%しかありません。「どちらともいえない」が半分以上を占めていますが、けっこう低い数値ですね。

 この傾向は、上記のウェブページの右側にまとめられている自由回答からも読み取れます。たとえば「自分にはできない」「何がおもしろいのかわからない」「面倒くさい」「自分が眠くなってきて、つらい」といったネガティヴな回答が並んでいます。比較的、絵本の読みきかせに積極的なお父さんでも、明確に前向きな回答は少ないような気がします。

 特集のタイトルは「お父さんだって、読みきかせたい。」ですが、調査の結果からは、とてもそう言えない現状が浮かび上がってくると言ったら言い過ぎでしょうか。

 アンケートのまとめに記されているように、お父さんにとっての読みきかせは発展途上かもしれませんね。単なる印象論にすぎませんが、一つには、「恥ずかしい」「どうしたらよいのか分からない」といった、読みきかせをはじめる以前の尻込みがあるように思います。もう一つには、仕事が忙しく疲れている父親の姿があると言えるでしょう。

 私の個人的な体験から言うと、子どもと一緒に絵本を読むことは、それ自体、仕事の疲れを取ってくれる最高の時間です。恥ずかしい、分からないといった最初のハードルを越えたら、あとは楽園、もうやみつきです(^^:)。

 特集のパート2で鈴木光司さんが触れているように、子どもの教育のためといったこともないわけではないでしょうが、私の場合は、むしろ、自分自身のためにも読みきかせをしていると言えます。読みきかせは、仕事のストレスを忘れさせてくれると言ってもよいです。

 まず、絵本は一つの独創的な表現様式であって、それにふれること自体が楽しみになると思います。すぐれた絵本は一個の芸術作品であり、それを体感することが楽しいわけです。

 もちろん、子どもと一緒に絵本を読むことはコミュニケーションですから、独りよがりなものではうまくいかないと思います。そうではなくて、子どものぬくもりを感じ、やりとりを楽しみ、一緒に笑ったりしんみりしたり、場を共有することそれ自体が、子どもにとっても自分にとっても貴重で、そしてまた楽しいのです。

 とにかく、まずは自分と子どもが楽しい時間を過ごす、そのことだけを考えるのがよいかもしれません。何かのためではなくて、それ自体を楽しむことが大事で、実際、絵本はそういう楽しみをたくさんもたらしてくれると思うのです。

 えほん大好き(読みきかせ・絵本大好きな方々のコミュニティ)ひとのページで、飯野和好さんが次のように語っています。

 絵本を人に読んであげるとき、たとえ相手が何人でも「芸能」になる。人に向かって表現するわけだからね。それをただ「読んで聞かせよう」とする人がたくさんいるんだね。芸能として考えたとき、もっと表現方法があると思うんだ。子どもを「いい子に育てよう」とかあまりかたく考えないで楽しんでほしいなぁー。

 大事なことはまさに上記で言い尽くされていると思うのですが、どうでしょう。

ポプラ社の中国法人書店

 中国の対外放送を行う中国国際放送局(サイトは中国国際放送局)、8月26日付けの記事、蒲蒲蘭絵本館 china radio international。ポプラ社の中国法人が2005年10月に北京にオープンした書店を紹介しています。書店の名前は「KID’S REPUBLIC蒲蒲蘭絵本館(ポプラ絵本館)」。

 写真も何枚か掲載されていますが、なかなか良い雰囲気ですね。中国語はもちろん、英語や日本語の絵本も揃っているとのこと。週末には読み聞かせなどの子ども向けイベントが開かれているそうです。

 ウェブサイトもあります。蒲蒲兰绘本馆です。当然、中身は中国語ですが、かわいいデザインですね。ただ、かなり重いです。

 また、ポプラ社のサイト会社概要のページを見ると、関連会社として「北京蒲蒲蘭文化発展有限公司」が挙げられています。

 で、それはともかく、上記の記事で一番驚いたのは、中国ではいわゆる「絵本」はこれまで存在しなかったという記述。うーむ、そうだったのか!

 なんとなく思ったのですが、これが事実だとすると、ポプラ社はかなり戦略的に中国に進出していると言えますね。少々うがった見方かもしれませんが、絵本という一つの文化を中国に持ち込み定着させることができたなら、これは巨大な市場になる気がします。日本とは比較にならない規模かと思います。

 三カ国語の絵本を扱っているのも、一つには北京在住の日本人を念頭に置いているのでしょうが、それ以上に、中国には従来なかった絵本文化を広めていく目的が大きいでしょう。

 実際、この試みは、記事を読むかぎりではある程度うまくいっているようです。口コミで来店者が増えているとのこと。

 ただ、おそらく、絵本出版社の中国進出はポプラ社以外にも試みられているかと思います。確実なことは分かりませんが、日本の出版社にはそれほど広がっていないとしても、アメリカやヨーロッパの出版社はだいぶ入っているのではないでしょうか。すでに厳しい競争があるのかもしれません。

経済産業省が「キッズデザイン賞」を創設

 NIKKEI NET、8月24日付けの記事、経産省が「キッズデザイン賞」・安全への配慮表彰。経済産業省が、子どもの安全や発育に配慮した製品や絵本、取り組みなどを表彰する「キッズデザイン賞」を創設するそうです。2007年度に第1回の作品を表彰し、以後、毎年実施とのこと。表彰事業の実際の運営は、「キッズデザイン協会」が行うとあります。

 最近は思いもかけない子どもの事故が起こっていますし、なかなか有意義な取り組みですね。ただ、記事中、一点、気になったのが、具体的な表彰対象として「倫理観をはぐくむ絵本」も想定しているというところ。子どもがケガをしにくいデザインのテーブルやイスはともかく、「倫理観をはぐくむ」ことのどこが「デザイン」に関係するのだろうと疑問に思いました。また、どんな倫理観なのかという点で、少々、あやういものも感じました。

 そこで、関連サイトを検索。

 まず、METI/経済産業省の報道発表のページに当該のプレスリリースがありました。「キッズデザイン賞」の創設について 報道発表(METI/経済産業省)です。PDFファイルで詳しい資料も閲覧できるようになっています。

 ざっと見てみましたが、NIKKEI NET の記事にあるような「倫理観をはぐくむ絵本」なんて記述はどこにも見あたりません。また、表彰対象に「絵本」は明記されておらず、そのかわりに「書籍」が入っています。しかし、これは、「商品デザイン:玩具、遊具、書籍、食品などのプロダクトデザイン」という表彰対象カテゴリーの一例として挙げられています。

 「プロダクトデザイン」ですから、基本的にはモノとしてのデザインと理解するのが自然ですよね。実際、小さな子ども向けの絵本は、紙の厚さや角の処理、使用するインクなど、安全であるために様々に工夫されていることがあります。この意味でのデザインが表彰の対象になるわけで、「倫理観をはぐくむ」といったような直接、内容にかかわってくるものではないと思われます。

 商品デザイン以外にも、建築デザイン、環境デザイン、コミュニケーションデザイン、リサーチデザインが対象になっていますが、いずれも倫理観を問題とするようなものではないでしょう。あえて関連を探すなら、特別賞のテーマ例として、「ジャパンバリューデザイン (日本的価値の提案に優れたもの)」が入っているくらいでしょうか。でも、これも「倫理観」というのは無理がありますね。

 念のため、今回の事業を主催・運営するキッズデザイン協会のサイトも検索してみました。KIDS DESIGN ASSOCIATIONです。サイト内のKIDS DESIGN AWARDにキッズデザイン賞の説明がありましたが、ここも基本的に経済産業省のページと同じ内容になっており、「倫理観をはぐくむ」といったような記述は見あたりませんでした。

 うーむ。NIKKEI NETの記事は何をもとに書かれたのかな? ちょっと謎です。経済産業省の担当者からそのような話を聞いたとか……。あるいは、8月24日に開かれたという「キッズデザイン賞創設シンポジウム」でそういう議論があったのか……。まあ、細かい話しではありますが、ちょっと違和感が残ります。

 それはともかく、上記の関連サイトに資料が掲載されていますが、キッズデザイン賞の受賞作品に付与される「キッズデザインマーク」、非常に斬新ですね。グラフィックデザイナーの佐藤卓さんがデザインされてます。佐藤さんご自身の主旨説明がPDFファイル等で読めますが、「優しく子どもを守る形をつくるのではなく、敢えて危険や不完全さを可視化」したとのこと。

 「子どもの安全安心と健やかな成長発達につながる生活環境の創出を目指したデザイン」として優れていると表彰されたものに対し、「危険や不完全さを可視化」したマークを付けるわけです。かなり大胆。表彰された側がマークの付与を敬遠したりしないかなと要らぬ心配をしてしまいます。

 でも、表彰されたからOKというわけではなく、子どもを取り巻くあらゆる「もの」「こと」を常に問い直し見直す必要があり、その作業に終わりはない……そうした意味で、このマークはたしかにぴったりかもしれません。

 表彰によって安住したりせず、なおいっそう前進し続けること。今回の賞に限らず、一般的に、なんらかの受賞に対するマークのデザインとして考えても、これはとても新しい気がします。